プロジェクト研究−II
 スポーツ産業学におけるテキストのあり方


代表 北村  薫(順天堂大学)
副代表 宮内 孝知(早稲田大学)
副代表 早川 武彦(一橋大学)
研究幹事 杉田 文章(多摩大学)

1.スポーツ産業学におけるテキストの意味

スポーツ産業学にとってのテキストづくりの意味は、_スポーツ産業の社会的認知を向上させるための情報発信、_大学教育におけるツール不足の打開、_有能な人材をスポーツ産業に志向させる動機づけ、の3点に求めることができ、さらに、これらの成果を蓄積することにより、_全体としてスポーツ産業学の理論的・実践的ベースを確立していくこと、が大きな目標として掲げられることになろう。本研究は、これらの要求に応えることができるテキストはいかなるものか、を明確にすることを基本目的とするものである。

2.スポーツ産業学の学問特性

テキストづくりの具体的なありかたは、その学問特性によって決定される。通常の学問は、その学問に固有の方法論をめぐって学問体系が成立している。しかし、スポーツ産業学は、スポーツ産業という《対象》をめぐって学問としての体系が形成される。このような学問体系をもつものとして、体育学、スポーツ健康科学、老年学などがあげられる。これらの学問は、その存立基盤としての「対象の価値」を明示することが必要となる。

本研究においては、すでに報告書で示した通り、スポーツを「プレイ、挑戦、身体活動をキーワードとする文化的装置」と理念的に規定している。この文化的装置が社会的な価値のみならず、経済的な価値をも有するようになるには、そこに活動主体の欲求を充足すると同時に、その活動そのものが他者の欲求をも充足するものであることが必要になる。この点を考慮し、前述のキーワードにメディアを加えたい。そこで、スポーツの特性からくる要求、メディアとしてのスポーツの要求を同時に満たす内容として、われわれは「感動」という概念を重視し、これを対象の価値と位置づけることとした。これをふまえ、本研究では、スポーツ産業を、プレイ、挑戦、身体活動およびメディアを鍵概念とし、自己の卓越性を求める努力を基礎として生み出される感動創造ビジネスの総体、と定義した。

以上のことから、スポーツ産業学の学問的性格は以下のようにとらえることができる。

スポーツ産業学は、自然科学、社会科学、人文科学の各学問領域が、個別領域からスポーツ産業にかかわる対象に接近し、その科学的深化を図ると同時に、それぞれの科学の成果をもとに、学際的・総合的な研究を展開することにより、感動創造というスポーツビジネスの理念を実現するための諸課題を解決する実践的な性格をもつ。

3.スポーツ産業学テキストの中・長期的課題

上述したスポーツ産業学の学問的性格と、すでに述べたスポーツ産業学におけるテキスト作成の意味の組み合わせから考えれば、テキストづくりの課題は多元的なものになる。

上記1−_スポーツ産業の社会的認知を向上させるための情報発信のレベルで考えた場合、スポーツマネジメント、スポーツ工学、スポーツ医学、スポーツ法学、スポーツ史、スポーツと環境、スポーツ指導、等のそれぞれの分野でスポーツ産業とのかかわりにおける研究成果をそれぞれに示し、全体として『スポーツ産業学体系 全○巻』という形式をとることになる。

このような意味でのテキストの作成には学問としての成熟が必要である。したがって、これは、テキストレベルでは最上位のものであり、長期的展望のもとに計画されるべきものであると位置づけた。

次に、1−_の大学教育におけるツール不足の打開という次元でのテキストを考えた場合、上述した『スポーツ産業学体系』を成立させるために、スポーツ産業学に関連する研究者ひとりひとりが、自らの研究成果をテキストとしてまとめ、学としての成熟化に貢献することが求められる。本研究では、この次元のテキストづくりを中期的課題と位置づけることとした。

4.スポーツ産業学テキストの短期的課題とテキストのコンテンツ

最後に、上記1−_の有能な人材をスポーツ産業に志向させる動機づけの次元で考えた場合であるが、これはスポーツ産業へのいざない、という意味が大きくなる。

これまでの体育学部は、スポーツが好きだけど保健体育の教員は嫌だ、という高校生を吸収し、スポーツ産業に目を向けさせる人材育成の機能を果たしていなかった。また、地域社会におけるスポーツ振興という面においても、スポーツ産業の発展に結び付く人材育成という視点は欠如していた。地域社会の中でスポーツを楽しんでいる人々は、スポーツ産業にとって消費者であると同時に、産業が成立するために必要なスタッフになりうる人々という発想で、テキストの構成を考えることも必要だろう。

以上の検討をもとに、現時点で考えられる短期的課題達成のための望ましいテキストの内容を示し、本研究のまとめとしたい。

(1)スポーツ産業に夢がもてるような働きかけを行なう

高校生や大学新入生の目線から、将来の夢となるような仕事を実現している人を題材に、スポーツ関係で「こんなことが仕事として成立している」というものを提供する)

(2)スポーツビジネスに挑戦している人を例に出してスポーツビジネスの理解を深める

いまだ十分に確立しているとはいえないが、夢を持ち、情熱を持ってスポーツビジネスに挑戦している人を題材に、起業的スピリッツ、表面に顕れないがその奥でスポーツと関連するビジネス等を紹介し、スポーツ関連の感動創造ビジネスの諸局面の理解を促進する。

(3)さらなるスポーツ産業の飛躍をイメージする題材を提供する

一見、スポーツとは関係なさそうな会社でも、その中でスポーツに深くかかわる仕事がある。従来の企業のスポンサードやイベント参画を越えたスポーツ戦略を企画、実施している一般企業を題材としてスポーツ産業の拡がりを示す。同時に、スポーツ産業の中核をなすスポーツメーカーのスポーツ戦略も変化してきている。この両者の情報を提供することにより、高校生や大学新入生の進路選択の多様性をアピールし、人材育成への寄与をねらう。

(4)スポーツ産業関連の基礎知識を提供する

文化としてのスポーツ、商品としてのスポーツ、スポーツ産業の基礎としての経済や産業の概念、スポーツビジネスや研究開発等、スポーツ産業に関連する基礎知識をわかりやすく解説する。地域社会のスポーツ愛好家にとって役に立つ知識も提供する。

(5)スポーツ産業関連の資料を提供する

スポーツ産業政策(規制緩和の問題なども含む)、スポーツ産業関連資格、スポーツ産業関連情報(大学の講座開講を含む)、スポーツ産業関連スポーツ組織・機構、スポーツ産業関連研究などの情報を提供する。





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